特集みんな、生成 AI 時代の 1 年生第 1 回
手記
AIのすごさを見せようとして、中学生の息子に一本取られた
生成AIの
息子が興味を持たなかったのは、AIのすごさのほうだった。見ているのは、AIの向こうにある自分の興味だ。

01「AIすごいぜ」のデモは、「興味ない」のひと言で幕が下りた
生成AIの会社をやっている。朝から晩までこの技術の話をして、いまだに毎週のように驚いている。だから、あの晩の僕は、少しも疑っていなかった。中学生の息子にAIで何ができるかを見せたら、きっと目を丸くするだろう、と。
ノートパソコンを抱えて、息子の隣に座った。「AIがどこまでできるか、ちょっと見せようか」。台本は頭の中にできていた。まず驚かせる。それから、すごい時代になったなと、ふたりで言い合う。
返ってきたのは、「興味ない」のひと言だった。
怒っているわけでも、反抗しているわけでもない。息子は顔を上げもせず、鉛筆を動かし続けていた。机の上のスケッチブックには、彼が描いている街が広がっている。僕は開いたノートパソコンを膝に乗せたまま、しばらく動けなかった。観客はひとり。幕が上がる前に、その観客が帰ってしまった。
02息子が興味を持たなかったのは、AIではなく「AIのすごさ」のほうだった
あとから、ようやく分かった。
「興味ない」は、AIを拒んだ言葉ではなかった。息子はAIを使う。使うのは、彼にとって当たり前のことだ。
アメリカで育った息子にとって、AIは「すごい新技術」である前に、最初から手元にある道具だった。日本の家庭では、まだそうでないところも多いかもしれない。
興味がなかったのは、「AIはすごい」と驚くことのほうだ。驚くのは、AIをまだ新しいものとして眺めている側のすることで、あの晩の僕が、まさにそちら側にいた。息子はそこをとっくに通り過ぎて、その先、つまり「自分は何が面白いのか」「何を作りたいのか」を考えるのに忙しかった。しかも、それを自分で考えること自体が好きらしい。
僕はAIを見せようとしていた。息子は、自分の興味を見ていた。見ている方向が、最初から違った。一本取られた、とはこういうことだ。
03高校生は表現、中学生は仕組みづくり。AIはどちらにとっても道具だった
息子は二人いる。
高校生の息子が夢中なのは、音楽やダンスのような、自分を表現することだ。
中学生の息子が夢中なのは、街づくりのような、仕組みを作ること。道をどう通して、どこに橋をかけて、そこでどんな暮らしが生まれるのか。スケッチブックの街は、そのための地図だった。
二人に共通しているのは、AIが目的ではないことだ。目的は、それぞれが自分で見つけた面白いことで、AIは、そのために使う道具のひとつにすぎない。ペンや楽器と同じ棚に、最初から並んでいる。
専門家は、つい道具のほうに目を奪われる。性能に驚いて、それを人に見せたくなる。僕がやろうとしたのは、まさにそれだった。見てほしかったのは、使う人ではなく、道具のほうだ。

04日本は生成AIの後進国で、世界の変化は1年単位で来る
ここからは、事実ではなく、僕のいまのメモを書く。正解のつもりはないし、長いので、飛ばしてもらってもいい。
僕は、生成AIは、農業革命や産業革命に並ぶ「思考革命」だと考えている。人間ではないものが考えた結果で、社会が動き、ものが作られていく。農業や産業と違うのは、速さだ。変化は、年単位で来る。
その速さの中で、僕には、日本はいま後ろを走っているように見える。つまり、後進国だと思っている。数字をひとつ。総務省の令和8年版情報通信白書(2026年7月)によると、何らかの生成AIサービスを使ったことがある人の割合は、2025年度の調査で、日本が58.8%、米国とドイツが75.6%、中国が93.6%だった[^soumu]。日本は前の年から倍以上に増えた。それでも、3か国のどれにも届いていない。
「まだ間違える」という声は、もっともだと思う。僕も、間違いを見つけて笑ったことがある。ただ、間違いを数えているあいだに、AIはどんどんよくなっていく。論理で考えることと、調べることでは、僕の感覚では、もう人間よりはるかに上だと感じている。間違いを数えて安心するのは、そろそろやめたほうがいいと、僕は自分に言っている。
もちろん、僕にも心配はある。子どもにどこまで使わせていいのかは、正直、僕にもまだ答えがない。AIは万能ではないし、体を動かすことや、自分の頭で考えることは、もっと大事だ。頼りきりになるのは、よくない。
05これから要るのは、AIに考えてもらう力だと思っている
これまで、人間はAIの代わりをするような仕事を、たくさんやってきた。座り続ける。覚える。そういう我慢の作業は、これから、AIに任せていける。経営の論理や作戦、ソフトウェアの制作や管理、経理や法務のような、毎日の運用の仕事もそうだ。要らなくなるのは、人間ではなく、我慢の作業のほうだと思う。
代わりに要るのは、AIに考えてもらう力だ。何を頼むかのアイデア、頼み方、そして、違うときに「違う」と伝える力。つまり、言葉にする力だ。僕がいま大事だと思っていることを、メモとして並べる。お子さんに課す話ではなく、僕が自分に言い聞かせている宿題だ。
- 言葉にする力。国語のことだ。分からないときに、「どう分からないか」を言い返せること。読む、話す、対話する。
- 論理と構造で捉える力。自分の考えを、一歩引いて眺めること(メタ認知)。
- エンジニアリングの理解。実際に打つのはAIでも、「作る」とはどういうことかを、分かっていること。
- そのすべての土台にある、好奇心と探究心。
06好奇心を向ける先は、子どもの数だけあっていい
AIが得意なら出世できる、という話ではない。大げさに聞こえるかもしれないが、考えるエンジンが無数にある社会では、一人でできることが100倍になる。会社の形も、社会も、変わっていく。そこで好奇心をどこに向けるかは、やれることが増えていく方向でも、AIにできないことでも、人の幸せや暮らしの質でも、AIと人間の関係をどう作るかでもいい。
子どもは、それぞれ違っていい。高校生の息子は音楽やダンス、中学生の息子は街。AIやITに興味を持てない子は、まったく違う方向に行っていい。
僕は、好奇心を抑えつけることが、いちばんよくないと思っている。あの晩の僕は、息子の好奇心の邪魔をしかけていた。AIの話をして、街を描く手を止めさせようとしたのだから。
07世界を冒険して、人生を楽しむ。それは、みんなでやる
大きな変化には、大きな混乱がついてくる。不安にもなるし、面白くもある。僕もまだ、その間を行ったり来たりしている。ただ、これも大げさに聞こえるかもしれないが、僕の実感では、毎月、10年に一度級の変化が起きていて、こんなに面白い時代もない。
この世界を冒険して、自分の人生を楽しむ。それは、一人では終わらない。誰かが分かったことを持ち寄って、分け合って、みんなで変わっていく。
この特集の名前は、「みんな、生成AI時代の1年生」だ。その「みんな」の中に、僕も入っている。AIの専門家のつもりで、いちばん大事なことを、中学生の息子に教わったのだから。
もしよければ、今夜、お子さんに一つだけ聞いてみてほしい。「いま、何に夢中?」。お子さんが小さくても、同じだと思う。答えが「別に」でも、それでいい。AIの話は、そのあとでいい。僕は、あのスケッチブックの街の話を、聞かせてもらうところから、やり直すつもりだ。
この記事について
テレポート代表取締役・平野友康の手記です。登場する息子たちの名前・学校・顔は載せていません。画像は、AIで生成した絵で、実際の場面ではありません。





